だいぶ前になってしまいますが、この本のことを知り、「読んでみたい!」と思い買いました。
筆者は、東大教授という、なかなか堅めな肩書の持ち主、でもどうやら発想や感受性やらはとても柔軟な様子。
「男性だけど女性になりたくて女性の格好をする」
のではなく、
「男性だけど女性の格好が落ち着く」
んだそうです。
なので「女性装」というふうに書かれています。
そもそもはネットでこの記事のタイトルに惹かれ、読んだことから。
日本の男が苦しいかどうかは正直、考えたことがありませんでしたが、「そういわれてみれば苦しそうかもしれない」とか適当なことを思って読み始めたのです。
とても長い記事ですが、興味を惹かれどんどん読み進められたのはやはりこのセンセの服装ですよね。
どこからそうなったのか??
それが思わぬ展開だったからです。
一言でまとめるのは難しいですが、最初に書いた通り「女性の格好が落ち着く」のだそうです。その背景には「男たるもの」的な考えのもと厳しく育てられた環境がありそうです。ご両親との確執は根深いものがあり、押さえつけられ植え付けられた「男の理想」が苦しく、女性の格好をすることでやっと自分を取り戻せた、ようです。
最初はなかなか体形に合う服がないため、女物の服を着てみたのが始まり、だった筆者が男性用と女性用の服の違いを述べるくだりがとても面白く、女物は男の服に比べて「やわらかくて薄い」「種類が豊富」なんて、そんなこと考えたこともありませんでした。
そして女性装をするようになってから、考え方も変わって来て、攻撃的じゃなくなって行ったそうです。
「やわらかい」衣服を身にまとうようになったら、考え方もやわらかくなる、だなんてびっくりですが、心地よかったら攻撃的じゃなくなるのは言われてみれば当たり前のことかもしれません。
つまり日本の男性は優しくされていないから反対に攻撃的にならざるを得ないのかな?
お化粧について書かれている部分も、目から鱗でした。
ふつう、化粧と言うのはだんだん濃くなって行きがちなもの。それがおかしいのは「自分ではないものに向かって化粧するから」だといいます。この場合、男であるのに、女と言う「自分でないもの」に向かって化粧の方向性を定めるとおかしくなってゆく、
だから化け物のようになってゆく、と。
そうではなくてお化粧とは、本来持っている肌が傷んだりした部分をそっと覆い、もともとの自分の美しさに戻るためのもの(ちょっと意訳してます)、だというのです。
そう言われればとても納得だし、どうお化粧して行けばいいのかがブレずに済みそう。
「○○はこうでなくてはいけない」「こうあらねばならない」といった刷り込みがいかに知らず知らずのうちにされているか、ひとはいかにそれにこたえようとしているものなのか。
その恐ろしさと私たちがどれだけそれに振り回されているか、がこの本を読むとわかりますし、考えさせられます。
それから、最近よく聞く「トランスジェンダー」という言葉の意味も、なかにそれはたくさんのタイプがあることもはじめてわかりました。
たとえば男に生まれ男として育てられたことに違和感を感じていたとしても、その違和感にはたくさんのパターンがあるのですね。
手術や投薬をしてでも体ごと女性にしたい人、そうは思わない人。恋愛対象が女性の人男性の人、両方の人。
自分もやはり「こうでなくてはいけない」「こうであるはず」といった思い込みに支配されていたのだなと、ここでも思わされました。
周りから言われるその「ねばならない」がいかにひとを狂わせるか。特に家族からの。
それは断ち切っていいものなんだよ、なにものでもない、という生き方があるんだよと請け負ってもらっているようで、読むとほっとする本です。